SPECIAL

ヴィジュコラ

ライター・藤谷千明が語る
”ヴィジュアル系”のこれまでと、これから。

第一回

「ヴィジュアル系
とはなにか?」

「ヴィジュアルプリズン」の世界を構築する重要なキーワードのひとつである「ヴィジュアル系」。この言葉は1990年前後、X JAPAN(※当時は「X」表記)が掲げていた「PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK」というフレーズが由来であるとされています。

80年代後半から、XやBUCK-TICKを筆頭に独自の美意識を持ち、派手なメイクと衣装をまとい魅力的な音楽でファンを熱狂させるバンドたちが、ロックシーンで台頭していました。彼らのルーツとされる音楽ジャンルは、ヘヴィ・メタル、ハードロック、グラムロック、パンク、あるいは歌謡曲など、数え上げるとキリがありません。既存の音楽ジャンルではくくりきれなかったシーンが、いつしか「ヴィジュアル系」という呼ばれるようになったのです。

「ヴィジュアル」と名がつきますが、むろん「見た目」だけというわけではありません。むしろ自分たちの音楽の世界をヴィジュアルでも徹底的に表現するという美意識のあり方が重要だったのです。

90年代に入ると、LUNA SEAや黒夢、GLAYなど、その後ロックシーンを盛り上げるバンドたちが続々とメジャーデビュー、音楽番組や雑誌などのメディアを席巻しました。ちなみに、音楽番組だけでなく、ワイドショーでもSHAZNAのIZAMのような中性的なヴィジュアル系ミュージシャンたちを「美しい男性が急増!」といわんばかりに、物珍しげな現象として取り上げられていたこともありました。97年には「ヴィジュアル系」という言葉は「新語・流行語大賞」にノミネートされ、すっかり世間に定着したようです。99年にはGLAY「GLAY EXPO'99 SURVIVAL」は20万人を動員し、現在も語り草になっています。

しかしながら、1997年にX JAPANの解散、2000年にはLUNA SEAが終幕するなど、レジェンドバンドたちは解散や活動休止を発表。世間的な「ヴィジュアル系ブーム」は終焉し、一つの節目を迎えました。「ヴィジュアルプリズン」に登場する、ECLIPSE(初代)はレジェンドバンドたちが駆け抜けた時代と似た雰囲気をまとっているように思います。

そして、2000年代に入るとNIGHTMAREやthe GazettE、SIDなど、レジェンドたちに影響を受けた新世代のバンドたちが登場し、彼らは「ネオ・ヴィジュアル系」と呼ばれ新たにヴィジュアル系シーンを牽引する存在になっていきました。

その一方で、インターネットが一般的になり、海外のファンの存在も可視化されるようになってきました。1990年代からメジャーシーンのトップを走るバンドが海外公演を行うことはありましたが、2000年代に入るとインディーズバンドも海外公演を行うようになりました。また、テレビアニメのテーマソングを手がけるヴィジュアル系バンドも多かったからなのか、あるいはアニメキャラクター的なルックスからなのか、とくにヴィジュアル系とアニメファンは日本以上に親和性が高いようで、フランスの「Japan Expo」などの海外のアニメコンベンションに出演するケースも目立ちました。そして聴いているだけでなく、自らヴィジュアル系バンドを結成する人たちも現れ、YouTubeなどで検索すると、様々な国のヴィジュアル系バンドがヒットします。「ヴィジュアルプリズン」に登場するキャラクターたちの出身も様々ですもんね。ちなみに、英語圏では「Visual kei」中国語圏では「視覚系」と呼ばれているそうです。

熱狂的なファンの存在も、ヴィジュアル系を語る上では欠かせません。LUNA SEAであれば「SLAVE」、DIR EN GREYであれば「虜」など、それぞれのバンドのファンごとに呼び名があり、自身をそう呼ぶことは結束の証でもあったのです。「ヴィジュアルプリズン」に登場するECLIPSEのファンの皆さんも「子羊」と呼ばれていますよね。バンドとファンの強固な絆も「ヴィジュアル系」にとって大切なものなのではないでしょうか。

「ヴィジュアル系」っぽいとされる様式美は存在しますが、それが絶対のルールではないので、それぞれのバンドが自由に解釈した「ヴィジュアル系」がシーンを盛り上げたのです。ダークでゴシックな要素を全面に打ち出したバンドも、ホスト風のアゲアゲなバンドも、原宿のストリートファッションをまとったポップなバンドも、「ヴィジュアル系」です。その結果、「楽器を演奏していないエアーバンド」というコンセプトのゴールデンボンバーが登場するに至りました。

また、2000年代後半〜2010年前後には、レジェンドバンドの再結成も相次ぎ、2016年にはレジェンド、若手問わずヴィジュアル系バンドが一堂に会する大規模なフェスが開催されるなど、様々な世代が交錯するシーンとなっています。

「ヴィジュアル系」という概念は誰にも定義できないし、解釈は自由です。それを繰り返すことでシーンは広がっていきました。「ヴィジュアルプリズン」の音楽は、どのようにヴィジュアル系を拡張してくれるのでしょうか?

(※本稿では「自身でヴィジュアル系と名乗っている、あるいはヴィジュアル系に大きな影響を与えたバンドを記載しています)