SPECIAL

ヴィジュコラ

ライター・藤谷千明が語る
”ヴィジュアル系”のこれまでと、これから。

第三回

「ヴィジュアル系と
ヴァンパイア」

生死を超越した闇の住人・ヴァンパイア

彼ら彼女らの存在は、古くから人々を魅了し続け、現在でも文学や映画、マンガ、ゲームに至るまで、古今東西の物語に登場します。それだけ人々の想像力を掻き立てるのでしょう。

ヴァンパイアといえば、人知を超えた孤高の怪物として恐怖の対象として描かれ、ときにはロマンチックで悲しい者として、はたまたコミカルな存在だったり……。彼ら彼女らは、物語のなかでさまざまな形で描かれてきました。作品によっては伝承を独自に解釈、斬新なアレンジをほどこしたものも多数あります。

美しきヴァンパイアたちが日本の「ハラジュク」に集い、ハロウィンの夜に「紅い月」のもとで音楽を披露しバトルを行う「ヴィジュアルプリズン」も、そんな多様なヴァンパイア解釈の最新形といえますね。

数あるヴィジュアル系のルーツのひとつにゴシックロック、ひいてはゴシックカルチャーがありますし、ヴァンパイアはゴシックカルチャーに欠かせない要素です。つまり、大変相性が良いといえるでしょう。このサイトに掲載されているギルティア・ブリオン役の古川 慎さんのインタビューにも、「設定をいただいた際、ヴァンパイア×ヴィジュアル系という部分に『合わない訳がない』と、強く感銘を受けたのを覚えています」とありました。合わない訳がない、そのとおりです!

ヴィジュアル系の中には、ヴァンパイアをテーマにしたストーリーを長期に渡って展開しているアーティストもいます。03年に結成され、今も活動中のヴィジュアル系バンド・Dは、楽曲を通してさまざまな世界観の物語を紡いでいます。その中でもヴァンパイアの王・ドライツェン、彼の息子かつダンピールであるジャスティス、そしてその仲間たちをめぐる300年以上に渡る物語「VAMPIRE SAGA ~薔薇の宝冠~」に関する楽曲は数十曲に上ります。壮大すぎる。

そして海外でも人気の高いVersaillesなどのヴォーカルをつとめるKAMIJOさんが2013年から開始したソロ活動では、フランス革命で処刑されたルイ16世の次男・ルイ17世が、サンジェルマン伯爵の暗躍によって、ヴァンパイアとなり不死の力を獲得し現代まで生き延びていたという、氏の愛するフランスの歴史を大胆に解釈したストーリーが展開されています。なお、ライブでは声優を起用したドラマと並行して楽曲を披露することもあり、そこに登場するナポレオン・ボナパルト役は「ヴィジュアルプリズン」のパンニャ役でおなじみの杉田智和さんです。

ほかにも、VAMPSなどそのままズバリの名前のユニットだったり、墓場の街から来たというLeetspeak monstersのメンバーは全員モンスターで、ベースのEuskyssはヴァンパイアです。楽曲だけでも、LUNA SEA「VAMPIRE'S TALK」、Janne Da Arc「ヴァンパイア」、PIERROT「ドラキュラ」、MALICE MIZER「Transylvania」、MUCC「ヴァンパイア」、NIGHTMARE「ヒプノランド」、LM.C「…with VAMPIRE」、摩天楼オペラ「DRACULA」だったり……。ヴァンパイア、吸血鬼を彷彿とさせるものを羅列するとキリがありません。このままではタイトルを紹介するだけで、このコラムが終わってしまいそうなので、このあたりにとどめておきますね。とにかく、ヴィジュアル系アーティストのヴァンパイアに注ぐ熱量は、並々ならぬものであることがおわかりいただけたでしょうか? 

同じヴァンパイアをテーマにしていても、ダークでゴシックな世界観を全面に出しているもの、男性のセクシーさを強調するもの、危険な異性との恋、あるいは叶わない悲恋をヴァンパイアと人間の関係に重ねているもの……、その解釈はやはり多様です。

本コラムの第一回で、「ヴィジュアル系」という概念は誰にも定義できない、それぞれが解釈を繰り返すことでシーンは広がっていったと書きました。ヴァンパイアの物語も、伝承から発展した様式美はありますが、それが絶対というわけではなく、その解釈はバラエティに富んでいます。その結果、人々に愛され物語のなかで存在し続ける、つまり一種の「永遠の命」を獲得しているのではないでしょうか。

新たなヴァンパイア像、ヴィジュアル系像を作ろうとする「ヴィジュアルプリズン」の物語、その音楽やキャラクターも、世界中の人々から末永く愛されることを祈っています。

(※本稿では「自身でヴィジュアル系と名乗っている、あるいはヴィジュアル系に大きな影響を与えたバンドを記載しています)