スタッフインタビュー
A-1 Pictures
制作統括
制作統括
山田賢志郎さん
A-1 Pictures
アニメーションプロデューサー
アニメーションプロデューサー
菊池雄一郎さん
最初に、上松範康さんとA-1 Picturesのタッグが掲げられた本作の成り立ちから伺わせてください。
- 山田
- 上松さんとアニプレックスの横山(朱子)さんから「新しい音楽ものをやろう」というお話をさせていただいていたときに、90年代に一世を風靡したヴィジュアル系の世界観がアニメ文化との親和性も高く、リアルタイムに知らない世代にも刺さるものがあるのではないかという話になったんです。当時のヴィジュアル系というと退廃的なイメージが強かったのですが、ジャンルとしても発展を遂げて変わってきているところがあるので、カラーの違う3ユニットを通してうまくあらわせたらいいなと考えました。上松さんとは、これまでに「うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE」シリーズを作らせていただいてきたという信頼関係もありつつ、実は、その前に我々が手掛けていた「黒執事」を見て気に入ってくださっていたということも、今回のプロジェクトの原点にあると思っています。これまでに自分たちが築き上げてきたものが交わった先に生まれたと思うと、感慨深いですね。
- 菊池
- 我々としては、シンプルに「映像としてカッコイイもの」とはどういうものなのかという命題に向き合うこととなりました。打ち合わせで、上松さんがよく口にされていたのが「美しさ、カッコ良さ、エロさ」の3点だったんです。最初からヴィジュアル系とセットで企画されたわけではなかったのですが、題材としてヴァンパイアの物語を描くことになったのも必然だったのかなと思います。
スタッフィングにおいては、どのようなところが要になりましたか?
- 山田
- ライブシーンにおけるキャラクターの動きを作画とCGで見せていく手法は、まだまだ業界においても確立されていないので、我々としてもノウハウを蓄積していく必要があり、「うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEレジェンドスター」、全編ライブシーンであった劇場版「うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVEキングダム」を手掛けられていた古田丈司さんに総監督をお願いしました。その上で、私自身も「七つの大罪 戒めの復活」で、お二人の息のあった仕事ぶりを見ていたので、よく一緒に組まれている田中智也さんに監督をお願いしています。
- 菊池
- 映像面でいうと、各話に合った作画スタッフを集めたことはもちろんなのですが、この作品の美しい世界観を表現するのに大きな力添えをいただいたのは、背景さんです。アニメーションって、作画でやれること以上に、背景がキャラクターの心情を映してくれるところがあるんですね。高い技術をもった背景会社のととにゃんさんにお願いできて、本当に良かったと思います。
ヴィジュアル系の華やかさやセンシティブな部分を映像化した歌唱シーンも、大きな話題を呼んでいます。
- 菊池
- 歌唱シーンの方向性としては2つあって、まずユニットの歌唱は、映像を通してライブ感を味わっていただけるように考えました。実際のライブでもスクリーンに歌詞が流れたりしますよね。ただ画面の端にテロップを流すだけではカラオケのようなので、派手さを出すべく、昔からお世話になっていて「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」Rhyme Animaのオープニングなどを手掛けられたハイパーボールさんにリリックモーションをお願いしています。逆に、キャラクター個人の歌唱シーンでは、イメージPVのように個々の持つ世界観を説明したかったので、歌詞は出さないようにしているんです。
- 山田
- 本編の中で視聴者の方に伝えたいことの70%をセリフや芝居で表し、歌唱パートで100%理解してもらえるような作りにしています。
- 菊池
- 大前提として、Elements Gardenさんから提供いただく音楽がとにかく良いんです。作画家さんたちも、その歌い方を聞いて、悲しい顔にしたり、決意に満ちた顔にしたり、キャラクターの心情に合わせた表情を考えながら作ってくれる。音楽を中心に映像が作られていく感じは、現場としても楽しかったです。
- 山田
- 全体として士気が高く、各話の演出さんも話数を重ねるごとに良い感じの遊び心を持って、楽しみながら絵にしていっているのが感じられる現場でした。
たとえばSNSで原画を公開するといった試みにも、そうした現場の自信と、より広い層へアニメーションそのものの魅力を届けようといった心意気のようなものが感じられました。
- 菊池
- 公式Instagramと僕のSNSで原画を投稿しているのですが、たしかにそういう側面はあるかもしれませんね。途中経過の素材とはいえ、キャラクターにも力がありますし、完成した映像だけ見せておしまいにするにはあまりにもったいない作品だと思うんです。放送後の余韻としてはもちろん、アニメーションというものに興味を持ってもらえるきっかけになっていたらうれしいです。
WEBのスタッフインタビューにご登場いただいたみなさまに伺っているのですが、作品にちなんで、ご自身が「美」を感じるものについて教えてください。
- 菊池
- 一日が終わりゆくせつなさもある、夕景ですね。たしか、朝からライブシーンのモーションキャプチャーを収録していた日に、スタジオから出たら、きれいな夕焼けが見られたんです。「うまくお客さんに届けられるといいな……」と、期待と不安を抱きながら眺めたことを思い出します。
- 山田
- 夕景と近いけど、私は、ランタンとか焚火の炎に惹かれます。飽きずにずっと見ていられます。そう考えると、もっとライブシーンで炎の演出をしてもらうべきだったかもしれません(笑)。
オンエアも残すところあと2話です。クライマックスの見どころや、本作の今後に期待されることは?
- 菊池
- キャラクター一人ひとりの可能性が広がっていき、我々としても思わぬ着地を迎えることとなりました。もちろん、ありとあらゆる方法で歌を見せていきます!
- 山田
- キャストを選ぶときから、芝居はもちろん歌のオーディションをしっかりやらせていただきました。歌に魅力のある方たちばかりなので、この歌唱シーンがより広く浸透していって、アニメ以外の展開もできたらいいなと思います。来年6月に開催されるキャスト総出演のライブを楽しみにしています。
- 菊池
- はい、楽しみですね。今後に期待することとしては、個人的には、ECLIPSE(初代)の活動を描いたものを作ってみたいです。
- 山田
- ギル、ディミトリ、ハイドの3人はヨーロッパ出身だから、年齢的にフランス革命時代の彼らも見られるのかな? 深堀りするとおもしろそうですね。
- 菊池
- 瞳をキラキラ輝かせていたサガが見たい(笑)。
- 山田
- 人気絶頂のところでギルが「俺、やめるわ」って解散する結末は変わらないですけどね(笑)。
- 菊池
- きっと、ヴァンパイアが不老不死であるように、この作品も、未来永劫、いろんなことができるのではないかと思います。引き続き、応援していただけますとうれしいです。
〝ビビッ〟ときたシーンは?
制作スタッフが振り返る、美しき映像の軌跡。
1話
「細かい話はさておき『この作品は、とにかく歌がとんでもなくスゴイんだぜ!』というところを見せようと、音楽を中心としたパンチのある始まりを作りました。アンジュが地方から上京してくるというところも〝バンドマンあるある〟のカッコ良さを出せましたね」(菊池)
「上松さんの出身地であるアヅミノ(安曇野)から出てきて、何が起こっているかわからないままヴィジュアルプリズンというものに巻き込まれていくアンジュと同じ目線で、視聴者の方にも物語に入り込んでいただくように作れたのではないかと思います」(山田)
2話
「ここで、どういう作品なのかということを説明しなくてはいけないので、キャラクターの特徴をしっかり出せる山口仁七さんに総作画監督をお願いしました。キャラクターごとの歌唱シーンは、ライブシーンともまた違ったヴィジュアル系の世界観を意識したイメージPVのような映像を作るため、専属のクリエイターによる作画と演出で展開しています」(菊池)3話
「ヴァンパイアの設定をうまく活かせたストーリーにできたと思いますヴィンパイアになると成長が止まる設定を双子のロビンとジャックに活かせました。彼らがヴァンパイアになる理由が、すごく人間らしい愛や嫉妬に由来するところも描けて、ライブシーン以外の作品としてのおもしろさの部分が伝えられる、初めての勝負回だったと思います」(山田)
4話
「3話で〝美しさ〟に振り、同時に感情表現を徐々に膨らませてきた中で、次に出したのはまさかのアクションでした(笑)。想像もしないもので、ビックリさせるのもおもしろいかなと考えたんですよ。イヴ役の七海ひろきさんの歌がカッコイイので、中途半端なものは作れません。普段は劇場アニメを中心にやられているアクションに強いスペシャルな人材を呼んで、映像に力を入れました」(菊池)5話
「美しさ、カッコ良さからの、泣ける回です。感動的に仕上がったのは、アンジュの歌が盛り上がりの頂点になるようシナリオ上で調整してくださった菅原雪絵さんと、感情をあらわにする芝居が本当にうまいアンジュ役の千葉翔也さんのお力ですね。あと、個人的に好きなのが、ECLIPSE(初代)の日常におけるロン毛ぶりです(笑)。不勉強ながら、ライブ中だけ奇抜なかつらをかぶっているものだと思っていたので『なるほど、地毛をスプレーで逆立てているのか』と、リアルな90年代を感じられる良いシーンになりました」(菊池)
「実は、この物語はギルを中心に動いています。なんとなく違うからとバンドを解散したり、自分勝手な人間のようですが、自分勝手って自分の思いをちゃんと表現できているということなんですよね。ギルのそんなところに、サガもアンジュも惹かれているのではないかと思います。そして、そんなギルを動かしたからこそ、アンジュが主役なんだということを象徴する回でした」(山田)
6話
「僕が一番〝ビビッ〟ときたシーンをあげるなら、狙い通りに作れたという意味で第6話のバトルシーンです。LOS†EDENの曲に合わせて、どこまでカッコイイシーンが作れるだろうかと、第4話のイヴのアクションを担当してくださった方に『手分けせず、ひとりでやって欲しい』とお願いして、半年ほどかけて描いていただいたんです。おかげで、ギルとサガの確執がカッコ良く表現できました。振付師の方に考えていただいた、ダンスにはいかないぐらいのパフォーマンスも肝になっていますね。それから、当初の予定にはなかったのですが、せっかくのライブ回なので、全ユニットの歌が聞きたいと思ってECLIPSEの特殊エンディングを作ったところ、期待の若手である渡辺有紀さん(絵コンテ・演出)と横山穂乃花さん(原画)の2人がみずみずしい才能を発揮してくれました」(菊池)7話
「ミストが歌ってサガがギターを弾くという、第1話でアンジュが歌ってギルがピアノを弾いたこととの対比がうまく描けました。ヴァンパイアになってまだ浅いこともあるのですが、サガは人間味があって良いキャラクターですね。ミストがビルから落ちる間際に何を言ったのか、その心情も含めて想像していただきたいエピソードです。」(山田)
「LOS†EDENを紹介すべく、ミストをピックアップしました。歌唱シーンは、普通はあまり絵コンテから絵を変えるということはしないのですが、よりミストという人が抱いているものを知ってもらうために、原画さんと直接相談しながら、アドリブでいろんな表情を足してもらいました。ちなみに、ライブ中のサガがキラキラしているのは、ミスト視点だからです(笑)」(菊池)
8話
「キャラクターたちの日常が垣間見える合宿回にして、動物化してしまうという、かわいくてコミカルなエピソードです。ディミトリが想定以上にふさふさのついたライオンになって、偶然ながらギャグ感が強くなり、これはこれで良かったなと思います。第6話と同じ若手ペアによる特殊エンディングでしたが、しっかりキャラクターをとらえているので、いつもとは違った組み合わせで、まだ見せたことのない顔を見せられました。敵同士ながら、みんななんやかんやで仲が良いですよね(笑)」(菊池)9話
「アンジュの故郷という名の始まりの地を映像にするため、担当している演出さんたちと安曇野へロケハンに行きました。特に、情景を映しながらアンジュのルーツを探っていくシーンは、背景と撮影の色合いも含めてこだわっています。もちろん、ECLIPSEの歌唱シーンにも力が入りました。あえてヴィジュアル系バンドっぽくはない雰囲気で、2人のイメージPVのような映像に持っていってくれたのがおもしろかったですね。ようやく2人の考えていることやキャラクター性が見える回ともなりました」(菊池)10話
「この話数でのサガの歌はギルに向けて、偽りのない熱い気持ちがあらわれていて今までの話数とはまた違った一面を魅せられたかなと思います。サガは、オラオラ系で、男性にも好きになってもらえるよう描いています。個人的にも好きなキャラクターなので、僕私が一番〝ビビッ〟ときたエピソードをあげるなら、ミストとの第7話か、ギルとの第10話ですね」(山田)
「アンジュが如何にギルに依存していたのかが見えると同時に、ギルが今までどういう思いでいて、この後どうするのか? というところを如何に映像で表現するかが重要な回でした。後半の一番のポイントは、サガのソロです。江口拓也さんの力強い歌声に合わせた絵を作るべく、社内でも一番画力のある人に依頼させてもらっています。ギルの魂が出てくるところは……決して笑うようなシーンではないのですが、放送時のみなさんの反応が楽しみなところでもあります」(菊池)