SPECIAL

ヴィジュコラ

ライター・藤谷千明が語る
”ヴィジュアル系”のこれまでと、これから。

第四回

「次元を超える
ヴィジュアル系」

ロックスターが2次元キャラになる。意外な組み合わせに思える方もいるかもしれませんが、The Beatlesやエルヴィス・プレスリーだってアニメになっていますし、日本のアーティストでも、TM NETWORKやZIGGYをモデルにしたアニメ作品もあります。

QUEENやデヴィッド・ボウイら、海外の美麗なロックスターをモデルにしたキャラクターが活躍する往年の名作少女マンガも少なくありません。ロックスターのカリスマ性や非日常・非現実感、そして時折見せる素顔などは、きっと クリエイターの創作意欲を刺激するのでしょう。

その流れはヴィジュアル系アーティストも例外ではなく、たとえばマンガを読んでいるとき、アニメを見ているときに、「このファンタジー漫画のモデルは○○さん?」だとか、「この不良漫画のキャラ、■■さんにそっくり!」と感じたこともあるのでは。偶然似ていることもあるかもしれませんが、わりとそのカンは当たっていることも……。

ヴィジュアル系アーティストに対して「少女マンガから抜け出したみたい!」という謳い文句が使われることもありますし、以前ヴィジュアル系シーンを盛り上げた雑誌の編集者の方が「少女マンガのキャラクターのように魅せる紙面づくりを意識していた」ということをおっしゃっていました。

ヴィジュアル系アーティストの個性の強さと、マンガやアニメ、ゲームなどの二次元の世界はとても相性がいいようです。

2021年3月に開催された本作『ヴィジュアルプリズン』作品発表会にて、原作と楽曲を手掛ける上松範康さんは 「ヴィジュアル系は日本が誇るべき音楽ジャンル、そしてアニメーションも日本が誇るべき文化。そのふたつのすばらしさを世界に伝えたい」とコメントしていたように、海外のアニメのイベントでヴィジュアル系アーティストがライブを行うことは多く、海外において、ヴィジュアル系とアニメは本邦よりもさらに親和性が高いのかもしれません。『ヴィジュアルプリズン』は世界でどのように受け止められるのでしょうか、楽しみですね。

そして、実際にバンドとマンガ、アニメとコラボレーションしたケースも存在します。たとえば、二重人格のヒロインとロックバンドが織りなすサスペンスを描く少女マンガ『HEARTS』(姫野くみ/1988年)には、BUCK-TICKをイメージしたバンド「BLUCK-TLICK」が登場する一方、BUCK-TICKが1988年にリリースしたミニアルバム『ROMANESQUE』では「HEARTS」というタイトルの楽曲が収録されており、バンドとマンガが双方向に影響しあうような試みでした。

1993年には、CLAMPの代表作のひとつであるマンガ『X』のアニメーションとともにX JAPANの名曲が流れるというチャレンジングな作品、その名も『X²-ダブルエックス-』が発表。その後1996年に公開された『X』の劇場版アニメの主題歌もX JAPANの「Forever Love」、まさに「Xづくし」のコラボレーションも記憶に残っています。なお、X JAPANが94年にリリースしたシングル「Rusty Nail」では、メンバーが荒廃した近未来風の世界で戦うアニメーションMVが制作されており、現在はYOSHIKI公式YouTubeチャンネルで視聴することができます。

そして、国民的アニメ作品に登場したことも。1998年に公開された劇場版『クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』では、SHAZNAのIZAMさんがしんちゃんたちと共演、主題歌もつとめていました。

「マンガから出てきたような」ではなく、マンガから現実に飛び出してきたこともありました。アニメ化もされた少女マンガ「快感♥フレーズ」(新條まゆ/1997年〜2000年)に登場したヴィジュアル系バンドΛuciferは、1999年に現実世界でもメジャーデビューし、注目を集めました。ちなみにその後、現実世界のΛuciferは、「タイの王女もファンを公言している」とニュースになったことも。

アニメやマンガではなく、「次元を超えたキャラクター化」という意味では、X JAPANのYOSHIKIとサンリオ「ハローキティ」のコラボレーションである「Yoshikitty」は、「サンリオキャラクター大賞」で海外投票部門でトップ常連の人気ぶりです。サンリオといえば、スマートフォン音楽アプリゲームなどを中心に展開する『SHOW BY ROCK!!』には、「シンガンクリムゾンズ」というヴィジュアル系バンドが登場するのです。

『ヴィジュアルプリズン』と同じくA-1 Picturesによるアニメも話題となった音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』のナゴヤディヴィジョン・Bad Ass Templeに所属する四十物十四は、ヴィジュアル系バンドのボーカリスト。彼のソロ曲はLeetspeak monstersやPENICILLINのHAKUEIさんら、ヴィジュアル系アーティストたちが楽曲提供しています。

スマートフォン音楽アプリゲームの『ARGONAVIS from BanG Dream!』では、「メンバー全員社会人」という地に足のついたフレーズと「ヴィジュアル系」というギャップがポイントのFantôme Irisが登場し、シドが提供する楽曲をゲーム内で楽しむことができます。なお、Fantôme Irisもゲームから飛び出し、現実世界でライブを行い(この表現もなんだか不思議ですね)、オリジナル楽曲だけでなく数々のヴィジュアル系アーティストのカバー曲を披露したことも。

ほかにも、健康や加齢に気を使うヴィジュアル系アーティストの生活をコミカルに描くマンガ『47歳、V系』(桂明日香/2019年〜)のように、非日常的な美麗な世界観とイメージとのギャップを逆手に取ることも。

……こんな風に例をあげると、前回同様やはりキリがなくなってしまうのですが、マンガや アニメ、ゲームなど、様々な世界で表現されるヴィジュアル系は、様々な解釈があるようです。

『ヴィジュアルプリズン』の各キャラクターを演じるキャストたちが、ヴィジュアル系メイクと衣装で魅せるMVも公開されており、こちらも大きな話題を呼んでいます。『ヴィジュアルプリズン』の、二次元と三次元の境界を越えた「ヴィジュアル系」表現に期待しています。

(※本稿では「自身でヴィジュアル系と名乗っている、あるいはヴィジュアル系に大きな影響を与えたバンドを記載しています)